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2018/01/23

CDU・CSU・SPDによる「大連立」政権再び?‐ドイツ発ニュースから

2018年になって20日以上過ぎてからのご挨拶となってしまいました、タケオです。

今年もどうぞ宜しくお願い致します!

2017年9月24日に行われたドイツ連邦議会議員選挙 (Bundestagswahl) において、どの政党も法案成立等で重要視される過半数以上の議席を確保できなかった中で、どのような連立政権が組まれるのか注目されていました。

しかし選挙結果が出てから4ヶ月経っても一向に連立与党の組み合わせが決まらないという、第二次世界大戦 (Zweiter Weltkrieg) 後の(西及び統一)ドイツ政治史上異例の事態となっていました。

そうしていた中、ようやくこの度ドイツキリスト教民主同盟 (CDU) 、バイエルン・キリスト教社会同盟 (CSU) 、ドイツ社会民主党 (SPD) の3党による、いわゆる「大連立 (Große Koalition) 」政権が誕生する運びとなりそうです。

今回はその経緯を振り返りたいと思います。

























「ジャマイカ連立」は不成立


ドイツ連邦議会議員選挙投票から約1ヶ月後の2017年10月18日、先ずはアンゲラ・メルケル首相 (Angela Merkel) を党首とするドイツキリスト教民主同盟とバイエルン・キリスト教社会同盟で構成される、いわゆる「連合 (Union) 」自由民主党 (FDP) 、そして同盟90/緑の党 (Bündnis 90/Die Grünen) による4党連立協議がスタート。

この連立はそれぞれの政党カラーから「ジャマイカ連立 (Jamaika Koalition) 」と呼ばれました(ドイツキリスト教民主同盟:黒、自由民主党:黄、同盟90/緑の党:緑)。

この協議は約1ヶ月と長期に及びましたが、2017年11月19日、自由民主党のクリスチャン・リントナー党首 (Christian Lindner) が以下のように述べて連立協議からの離脱を表明し、「ジャマイカ連立」は不成立となりました



Es hat sich gezeigt, dass die vier Gesprächspartner keine gemeinsame Vorstellung von der Modernisierung unseres Landes und vor allen Dingen keine gemeinsame Vertrauensbasis entwickeln konnten. Eine Vertrauensbasis und eine gemeinsam geteilte Idee, sie wären aber die Voraussetzung für stabiles Regieren. 
今回の協議で示されたのは、4党共通で我が国のこれからの方向性を具体化させること、そして特に信頼の構築が出来なかった、ということです。信頼の構築と共通の理念がなければ、政権を安定化させることは出来ないでしょう。





フランクフルター・アルゲマイネ紙 (Frankfurter Allgemeine) とのインタビューの中でリントナー党首は、連立協議の中で妥協点を見いだせなかった様々な理由 (viele Beispiele) の一つとして、EU加盟国が経済危機に陥った時のEUとしての経済的救済 (Euro-Rettungsschirme) について、同盟90/緑の党の考え方との相違が大きかったことを挙げています。

しかし、それ以外にも同盟90/緑の党とは環境政策・移民政策を中心に大きな隔たりがあることは既知のことであり、国家レベルでの政権運営で妥協点を見出すことは非常に困難だった、と言えるでしょう。


※参考リンク
フランクフルター・アルゲマイネ紙2017年10月9日付「メルケル首相、ジャマイカ連立成立に向けての連立協議へ (Merkel lädt zu Sondierungsgesprächen für Jamaika-Koalition) 」(ドイツ語)
ヴェルト紙2017年11月20日付「リントナー自由民主党党首、連立協議離脱表明記者会見全文 (Die FDP-Absage von Christian Lindner im Wortlaut) 」(ドイツ語)
フランクフルター・アルゲマイネ紙インタビュー記事|クリスチャン・リントナー公式ウェブサイト(ドイツ語)





クリスチャン・リントナー自由民主党党首、連立協議からの離脱表明記者会見(2017年11月19日





シュタインマイヤー大統領 早期の政権樹立を期待


「ジャマイカ連立」協議が不調に終わった後、前外務大臣のフランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領 (Frank-Walter Steinmeier) は連邦議会で議席を持つ各政党の党首と政権作りについて相次いで会談。

特に2017年12月1日には、メルケル首相、バイエルン・キリスト教社会同盟のホルスト・ゼーホーファー党首 (Horst Seehofer) 、そしてドイツ社会民主党のマルティン・シュルツ党首 (Martin Schulz) を、大統領官邸であるベルビュー宮殿 (Schloss Bellevue) に招待しました。

2時間以上にも渡った会談で、シュタインマイヤー大統領が直々に「大連立」政権の可能性を探るよう依頼したと見られます。


※参考リンク
ツァイト紙2017年11月24日付「シュタインマイヤー大統領 連合・社会民主党を会談に招待 (Steinmeier lädt Union und SPD zu gemeinsamem Gespräch ein) 」(ドイツ語)
ARD2017年12月1日付「べレビュー宮殿で2時間の会談 (Zwei Stunden im Schloss Bellevue) 」(ドイツ語)





CDU・CSU・SPDによる「大連立」政権成立へ


シュタインマイヤー大統領の意向を受けてか、ドイツ社会民主党は2017年12月7日に行われた党大会で「大連立」政権成立に向けての連立協議参加を党員の多数支持により承認。

その後メルケル首相・ゼーホーファー党首・シュルツ党首は、クリスマス休暇・年末年始休暇後の2018年1月7日より連立協議を開始しました。

そして同年1月12日、3人はついに「大連立」政権を運営することで基本合意。

欧州委員会委員長の経歴を持つシュルツ党首は合意後の3人による共同記者会見の中で「大変素晴らしい結果を得られたと思う (Ich glaube, dass wir hervorragende Ergebnisse erzielt haben.) 」と成果を強調しました。

1月21日にはドイツ社会民主党の党大会でも今回の基本合意並びに連立協議参加が多数決で承認され、ここに再び「大連立」政権が誕生することとなりそうです。

今回の協議での具体的合意点としては以下の通りです。


連帯税(Solidaritätszuschlag、イツ統一に掛かっている費用を賄うための税金)の減額 (Senkung des Solidaritätszuschlags)

○EU及びユーロ圏への参画強化 (Stärkung der EU und der Euro-Zone

○グリホサート(Glyphosat、除草剤ラウンドアップの主成分)使用制限 (Weniger Glyphosat


※参考リンク
ツァイト紙2017年12月7日付「ドイツ社会民主党 連合との連立協議参加に賛同 (SPD für "ergebnisoffene Gespräche" mit der Union) 」(ドイツ語)
南ドイツ新聞2017年12月20日付「連合とドイツ社会民主党 1月12日までに連立協議結論の意向 (Union und SPD wollen bis 12. Januar Sondierung beenden) 」(ドイツ語)
フランクフルター・アルゲマイネ紙2018年1月12日付「シュルツ「素晴らしい結果を得た」 (Schulz: Wir haben hervorragende Ergebnisse erzielt) 」(ドイツ語)




「大連立」合意後、ドイツ社会民主党のマルティン・シュルツ党首記者会見(2018年1月12日)





ドイツ社会民主党が再び「大連立」を選ぶ背景は?


これまでの経緯の中で非常に興味を持ったのが、ドイツ連邦議会議員選挙後あれだけ「野党第一党として頑張る」と表明していたドイツ社会民主党のシュルツ党首が、一転して再び連立与党としての道を選ぶ背景です。

一番にはシュタインマイヤー大統領の意向を容易には無視できないことがあると思いますが、その他に、選挙で躍進したドイツのための選択肢 (AfD) のこれ以上の攻勢を許したくなかった、という思惑があるように見えます。

今回の「大連立」参加を拒否することになれば、政策及び理念の近い政党同士での「少数与党」連立政権 (Minderheitsregierung) 若しくは再選挙の実施 (Neuwahl) が考えられました。

しかし、選挙で歴史的な獲得議席数減を喫し、ドイツ有権者の中での既存政党への不満が見えているだけに、いずれの場合もドイツのための選択肢の更なる躍進が予想され、少なくとも向こう4年間が取り返しのつかないことになることを恐れたのではないかと思います。





終わりに‐「大連立」政権樹立後も残る懸念


政権運営がようやく固まりそうですが、今回の「大連立」政権合意の中で、個人的に以下の2つの懸念を抱いています。


1. 具体的合意の不足

「大連立」基本合意文書が28ページでしか構成されていなく、上記の3つ以外の、保育園費や健康保険政策等多くの具体的合意が不足しているということです。

ドイツ社会民主党スポークスマンも、「細かい修正のためにはもう一度集まる必要がある」と認めている程です。

政権を運営するに当たって、細部に渡るほど生じてくるであろう相違点を埋めて行けるのかが問われそうです。


2. ドイツ社会民主党の党内分裂

1月21日のドイツ社会民主党党大会で「大連立」政権へ向けた連立協議参加が多数決で承認されたと書きましたが、ただその内訳は、有効投票数642の中で賛成が362票と、反対279票を「僅かに」上回っただけ

特に若手党員で構成されるドイツ社会民主党党内組織Jusosは早くから「大連立」政権参加に反対の意思を表明しており、彼らを中心として反対票も多く集まったと見られます。

シュルツ党首を始めとしたドイツ社会民主党首脳陣は、連合と党内との狭間で難しい党運営を迫られると見られます。


※参考リンク
フランクフルター・アルゲマイネ紙2018年1月12日付「シュルツ「素晴らしい結果を得た」 (Schulz: Wir haben hervorragende Ergebnisse erzielt) 」(ドイツ語)
フランクフルター・アルゲマイネ紙2018年1月21日「ドイツ社会民主党 連立協議参加に賛同 (SPD stimmt für Groko-Verhandlungen) 」(ドイツ語)
ヴェルト紙2018年1月21日「ドイツ社会民主党 僅かの差で連立協議参加賛同に少ない拍手 (SPD stimmt knapp für GroKo, der Applaus bleibt aus) 」(ドイツ語)




次回のドイツ連邦議会議員選挙が行われる2021年までに今回の「大連立」政権が安定的に政治を行っていけるのか注目していきたいと思います。

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