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2017/09/17

シリーズドイツ連邦議会総選挙2017 Part 3 - 総選挙でのドイツ政党の公約比較、そして注目点についておさらい!

ドイツのアンゲラ・メルケル (Angela Merkel) 首相を直で拝見したことのあるタケオです。

2017年9月24日のドイツ連邦議会総選挙投票日まであと1週間です!

そこで今回はシリーズドイツ連邦議会総選挙2017 Part 2で紹介したドイツの政党の選挙公約、いわゆるマニフェストについて見ていきたいと思います。

比較対象の政党は以下の通りです。


ドイツキリスト教民主同盟 (CDU)・バイエルン・キリスト教社会同盟 (CSU) 連合
ドイツ社会民主党 (SPD)
左翼党 (Die LINKE)
同盟90/緑の党 (Bündnis 90/Die Grüne)
自由民主党 (FDP)
ドイツのための選択肢 (AfD)


ドイツキリスト教民主同盟とバイエルン・キリスト教社会同盟はウニオン (Union) と呼ばれる連立を組んでいて、選挙公約も共同で作成しています。

そのため、ドイツキリスト教民主同盟 (CDU)・バイエルン・キリスト教社会同盟 (CSU) 連合として一まとめで紹介します


参考リンク
全政党選挙公約(マニフェスト)一覧|バーデン=ヴュルテンベルク州政治教育センター(ドイツ語)


目次
1. 経済政策
2. IT政策
3. 労働政策
4. 教育・福祉政策
5. 環境問題対策
6. 難民・移民受け入れ政策
7. 内外政治政策
8. 終わりに‐ドイツ連邦議会総選挙の注目点



経済政策


ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合

○電気車交通網 (Elektromobilität) ・自動運転車 (Automobil) 等、次世代自動車産業の発展加速
○道路・鉄道等インフラ整備の積極推進
○デジタル分野の小企業、いわゆる「スタートアップ (Start-up) 」企業創業者への公的支援
○2025年までに、国内総生産 (Bruttoinlandsproduct) の3.5%を研究費に


ドイツ社会民主党

○中小企業向けに、研究要員の社員を雇えるための「研究費ボーナス (Forschungsbonus) 」支給
○福祉関連職員の賃上げ
○電気車交通網の開発・発展への支援


左翼党

○ドイツ鉄道 (Deutsche Bahn) の再国有化
○自転車道 (Fahrradweg)・歩道 (Fußweg) 拡充
○社会福祉分野の財源として、年間収入100万ユーロ以上の人に対する「富裕税 (Vermögensteuer)」導入


同盟90/緑の党

○電気車交通網の開発・発展への支援
○中小企業向けに、研究要員の社員を雇えるための「研究費ボーナス」支給
○エネルギー転換・IT化分野で新たな雇用創出


自由民主党

○大麻 (Cannabis) 違法の中での乱用及び犯罪増加を止めるための、厳正な販売管理及び課税下での、成年への大麻販売許可
○民間の競争原理による電気自動車 (Elektroauto) 開発及び発展(特定の動力源の自動車を禁止せず)
○不動産取得税 (Grunderwerbsteuer) の最大50万ユーロ控除


ドイツのための選択肢

○相続税 (Erbschaftsteuer) 廃止
○「富裕税」導入反対


電気自動車の推進を図っているのが、ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合、ドイツ社会民主党、同盟90/緑の党、自由民主党。

左翼党は、公共交通機関若しくは自転車道・歩道の整備を強く謳っています。

ドイツ社会民主党と同盟90/緑の党は、電気自動車関連やいわゆる「研究費ボーナス」導入で政策が共通しています。

ユニークなのは、自由民主党の大麻合法化でしょうか。

ドイツのための選択肢は、特定の分野への開発投資ではなく、税負担軽減政策に重きを置いています。



IT政策


ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合

○鉄道きっぷの電子化。
○グラスファイバーによる「5G」通信網の整備。
○「市民ポータル (Bürgerportal) 」を通じての各種公共手続き簡素化。
○大学を含めたドイツ全学校のインターネット連携


ドイツ社会民主党

○公共交通の電子ネットワーク化


左翼党

○各種学校において、無線LAN等通信網整備加速
○介護現場でのロボット導入反対


同盟90/緑の党

○農業分野のIT化「スマートファーミング (Smart Farming) 」推進


自由民主党

○IT教育機器購入費用として、高校生までの生徒に今後5年間で一人当たり計1,000ユーロ支給
○「デジタル省 (Digitalministerium) 」創設


ドイツのための選択肢

○ブロードバンド拡充



現与党であるドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合が新たな産業分野としてIT分野に注目し、様々な政策を打ち出すことを公約としています。

同じく経済重視の自由民主党も、「デジタル省」の創設という、他の政党と差別化を図っています。


労働政策


ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合

○25~35歳で職業訓練 (Ausbildung) を修了していなくても働けるよう法整備。
○両親が失業している若者への経済支援。
○月最大450ユーロまでとなっているアルバイト (Minijob) の賃金の上方修正。
○2025年までに全ての業界の管理職の男女比率を1:1に。


ドイツ社会民主党

○大学教員の女性比率を最低40%に設定
○2025年までに会社役員の男女比率を1:1に
○失業後最大48ヶ月間受け取れる新たな失業手当 (Arbeitslosengeld) の新設 (Arbeitslosengeld Q)

※現失業手当については、下記の日本語資料が参考になりました。
基礎情報:ドイツ(2013年) 2. 雇用・失業対策|独立行政法人労働政策研究・研修機構


左翼党

○現在1時間当たり8.84ユーロの法的最低賃金 (Mindestlohn) を、12ユーロに引き上げ。

○正社員 (Festangestellte) の雇用促進
○派遣労働 (Leiharbeit) 制度廃止


同盟90/緑の党

○週当たり労働時間 (Arbeitszeit) を、労働者自身の状況に応じて30~40時間の間で自由に設定可能なよう制度改正


自由民主党

○週当たり労働時間を最大48時間までに制限


ドイツのための選択肢

○会社全体の派遣労働者 (Leiharbeiter) の割合を15%に制限
○派遣労働者6ヶ月勤務後の正社員登用義務化


労働政策が一番充実しているように感じたのは左翼党。

中道左派と評価されているドイツ社会民主党での具体的な労働政策が案外少なく見え、中道右派若しくは保守路線を走っているドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合の方が具体性を帯びているように感じます。



教育・福祉政策


ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合

○月当たり児童手当 (Kindergeld) を25ユーロ分引き上げ(子供1~2人:192ユーロ→217ユーロ、子供3人:198ユーロ→223ユーロ、子供4人以上:223ユーロ→248ユーロ)
○子供のいる若い夫婦のマイホーム購入へ年間最大1,200ユーロを無償支援(10年間継続)
○家賃適正化のため、2021年までに150万戸の公共住宅創出


ドイツ社会民主党

○家族労働時間制(Familienarbeitszeit、週26~36時間)導入
○子供のいる家庭で、家族労働時間制での要件を満たした場合、親一人につき月150ユーロ支給(最大2年間、シングルマザー若しくはファザー、同性婚家庭も対象)
○保育園への保育料 (Kita-Gebühren) の段階的廃止
○職業訓練に掛かる費用の廃止
○現行67歳となっている年金支給開始年齢 (Renteneintrittalterの、更なる年齢引き上げなし
○父もしくは母と子供を1組として、1組当たり年間150ユーロの「子供ボーナス (Kinderbonus) 」支給(最大2万ユーロまで)
○国立学校でのイスラム教に関する授業実施


左翼党

○月当たり児童手当を一律328ユーロに引き上げ
○介護福祉職10万人新規雇用創出
○今後1年間で250万戸の公共住宅創出
○年金受給開始年齢を現行の67歳から65歳に引き下げ
○月1,050ユーロの「最低年金受給額 (Mindestrente) 」導入


同盟90/緑の党

○シングルマザー・ファザー (Alleinerziehende) 及び同性婚家庭 (Regenbogenfamilien) も、異性家族と同様に様々な支援が受けられるよう、親としての権限を法的に明文化
○100万戸住宅新規創出
○人生設計及び労働環境に応じた年金受給開始年齢のフレキシブル化(最少60歳から)


自由民主党

○連邦州毎に異なる学習要領の統一
○生徒とその親による学校評価制度導入
○人生設計及び労働環境に応じた年金受給開始年齢のフレキシブル化(最少60歳から)


ドイツのための選択肢

○シングルマザー・ファザー非支援対象
○父と母で構成された親だけを家族モデルとする
○国公立学校でのイスラム教に関する授業禁止
○労働開始45年目からの年金受給開始



左派と評されるドイツ社会民主党と左翼党の教育・福祉政策が充実しているように感じます。

特に左翼党の教育・福祉政策は、経済政策で取り上げた「富裕税」を財源にするとしています。

それだけでなく、ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合も、子供を持つ家庭への支援に積極的です。

ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟・ドイツ社会民主党で組まれている現政権、いわゆる「大連立 (Große Koalition) 」が段階的な67歳への引き上げを決定した年金受給開始年齢について、各現野党はそれに代わる年金政策を打ち出しています。

ドイツ社会民主党、同盟90/緑の党、自由民主党が、シングルマザー・ファザー家庭或いは同性婚家庭の尊重を明確にしている一方で、ドイツのための選択肢は従来の父母・子供で構成される家族のみを支援対象としています。



環境問題対策


ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合

○2023年までの原子力発電所 (Atomkraftwerk) 全廃
○特定の自動車を対象とした使用禁止措置なし
○ドイツ全土に電気車交通網及び水素車交通網 (Wasserstoffmobilität) のための充電スタンド又は水素ステーション (Ladesäule) を計5万箇所設置
○2015年締結「パリ協定 (Pariser Klimaschutz-Abkommen) 」を継続支持


ドイツ社会民主党

○2015年締結「パリ協定」を継続支持
○遺伝子組み換え食物 (Gentechnisch veränderte Organismen) の栽培禁止


左翼党

○2016年時点32.3%の自然エネルギー (Erneuerbare Energie) 利用比率を、2020年までに43%達成するための、自然エネルギー拡充への資金投入


同盟90/緑の党

○原子力発電所を2022年までに全て廃炉
○火力発電所 (Kohlekraftwerk) を20ヶ所即廃炉
○2030年までに全ての自動車が排出ガス (Abgas) を出さないような投資の加速
○農場での農薬使用禁止
○遺伝子組み換え食物禁止
○北アフリカ沿岸での過剰漁獲禁止
○動物実験の見直し
○動物性食品(食肉、牛乳、卵等)の飼育・生産過程表示義務


自由民主党

○特定の電力源だけに頼らない、様々な電力源からの電力利用


ドイツのための選択肢

○「脱炭素化 (Dekarbonisierung)」反対
○火力発電所・原子力発電所の稼働継続
○ディーゼル自動車 (Dieselfahrzeuge) の使用継続
○風力発電機 (Windenergieanlage) の増設取り止め


環境保護について思い切った姿勢を見せているのは同盟90/緑の党。

ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合、ドイツ社会民主党、左翼党は中道の環境保護路線と見て取れます。

自由民主党は環境問題についての明確な政策は打ち出していない一方、環境保護のほぼ反対路線に向かっているのがドイツのための選択肢と言えるでしょう。



難民・移民受け入れ政策


ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合

○移住してきた専門職者 (Fachkräfte-Zuzug) への課税
○EU加盟国として、EUとしての難民に関する協定を、トルコ以外の関係国とも締結することを推進
○2015年のような大量難民・移民受け入れは今後行わず、違法移住 (Illegale Migration) を減らす政策の実行


ドイツ社会民主党

○難民の諸権利保証
○EU加盟国間での難民の公平な分配 (Verteilung)
○違法移民のEU加盟国への入国阻止を担う機関への支援
○移住してきた専門職者への課税


左翼党

○EU・トルコの難民に関する協定 (EU-Türkei-Abkommen) 廃止
○難民の基本的人権 (Grundrechte) 保障


同盟90/緑の党

○難民の基本的人権保障
○難民の強制帰還 (Zurückkehr) なし


自由民主党

○紛争地域からの難民、基本的人権以上の権利保障なし及び紛争終結後強制帰還
○専門職者の移住歓迎


ドイツのための選択肢

○移民・身元の特定できない難民申請 (Asylbewerbung) 認めず


僕がベルリンに滞在していた2015年に約80万人の難民及び難民を受け入れて以降、彼らに対する保護・保障政策に関する議論が活発になっている中、トルコ系ドイツ人が代表候補者の一人になっている同盟90/緑の党は、難民の強制帰還をさせないことを明確にしています。

一方、程度の差はあれ、高度の知識をもった移民の受け入れを歓迎する政党は多く見られますが、彼らに対して課税対象する政策を打ち出した政党もあります。


内外政治政策


ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合

○トルコは様々な国際問題解決に重要な国家である一方、現状でのEU加盟 (EU-Beitritt) 反対
○ドイツ全土で適用できる警察法 (Musterpolizeigesetz) の検討及び1万5,000人の警察官増強
○連邦軍 (Bundeswehr) の兵士1万8,000人増強
○イスラム教徒又は施設へのヘイト行為 (Hass) への罰則
○EU外から移住してきた両親がドイツで産んだ子供の子供以降(移民3世以降)に対する二重国籍 (Doppelte Staatsbürgerschaft) 廃止


ドイツ社会民主党

○ドイツ全土で1万5,000人の警察官増強。
○治安維持のための連邦軍動員なし。
○イスラム教徒又は施設へのヘイト行為 (Hass) への罰則
極右勢力による犯罪行為への罰則
○二重国籍の対象者制限なし
○EU及びNATO加盟国以外への三国間武器輸出停止
○ドイツ連邦議会総選挙及び欧州議会議員選挙権の16歳への引き下げ


左翼党

○二国間及び複数国間自由貿易協定 (Freihandelsabkommen) 反対
○EU加盟国を含む国外への武器輸出停止
○海外駐在連邦軍兵士の帰還
○NATOとの協力関係見直し


同盟90/緑の党

○LGBT・ユダヤ教徒・ムスリム・ロマ等あらゆる差別 (Diskriminierung) 解消に向けた努力継続
○二重国籍の対象者制限なし
○治安維持のための連邦軍動員反対
○紛争地域への武器輸出禁止


自由民主党

○イスラム過激派によるテロ対策として、他国情報機関との連携強化
○連邦軍のEU及びNATOへの積極的協力推進
○紛争地域への武器輸出禁止
○二国間及び複数国間自由貿易協定賛成
○LGBTの権利保障


ドイツのための選択肢

○主権国家としてのドイツを取り戻すためとしてのEU脱退 (EU-Austritt)
○基本法改正時にのみ可能となっている国民投票
(Volksabstimmung) の権限拡大
○大統領 (Bundespräsident) の直接選挙制 (Direktwahl) 導入
○議員定数を500に制限
○通貨ユーロから脱退し、新国内限定通貨「ドイツマルク (Deutsche Mark) 」導入
○連邦軍の海外派兵なし
○ロシアとの緊張緩和及び関係強化
○トルコのEU加盟交渉即中止
○兵役義務 (Wehrpflicht) の復活
○二国間及び複数国間自由貿易協定 (Freihandelsabkommen) 反対
○ドイツ企業の発展途上国への進出支援
○刑事責任を問える年齢 (Strafmündigkeitsalter) を満12歳までに引き下げ
○二重国籍を、ドイツで産まれた者のみに限定
○イスラム国家等海外からの投資を通じてのモスク建設反対
○ブルカの公共空間での着用禁止


政治課題において主なキーワードとなっているのが、武器の輸出・二重国籍・連邦軍兵士の海外派兵・LGBTの権利・自由貿易協定への参加です。

基本的傾向としては、右派が武器輸出容認・二重国籍制限・連邦軍の海外派兵容認・自由貿易協定への参加。

左派が、武器輸出禁止・二重国籍容認・連邦軍海外派兵禁止・自由貿易協定不参加です。


また、ドイツのための選択肢は基本的に「主権国家としてのドイツを取り戻すため」として外政への不干渉主義の立場を取っており、国外での要因による不利益を被ることを避けたい姿勢が見て取れます。

しかし、一方でロシアとの関係回復や発展途上国への投資拡大というのは、個人的には外政不干渉の論理から程遠いように見えます。


終わりに‐ドイツ連邦議会総選挙の注目点


今回の総選挙での僕なりの注目点は以下の3つです。


1. ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合とドイツ社会民主党、どちらが第一党になるか?
2. 第三党の座はどの政党に?


世論調査研究機関Infratest dimapの「今日もし選挙の投票日だったら、第二投票 (Zweitstimme) はどの政党に入れるか?」2017年9月14日調査結果によれば、各政党の得票率は次の通りになっています。


ドイツキリスト教民主同盟 (CDU)・バイエルン・キリスト教社会同盟 (CSU) 連合:37.0%
ドイツ社会民主党 (SPD) :20.0%
左翼党 (Die LINKE) :9.0%
同盟90/緑の党 (Bündnis 90/Die Grüne) :7.5%
自由民主党 (FDP) :9.5%
ドイツのための選択肢 (AfD) :12.0%


第一党については、ドイツキリスト教民主同盟・バイエルン・キリスト教社会同盟連合が、ドイツ社会民主党に1.5倍近くの差をつけて独走状態に入っていますが、単独での過半数は厳しく、スムーズな政権運営に当たっては、ドイツ社会民主党若しくは少数政党との連立が必要な状況になっています。

また、第三党についてはドイツのための選択肢が僅かではありますがリードしており、ドイツ連邦議会での初めての議席獲得だけでなく、10%以上の議席獲得も視野に入っています。

2017年9月24日投票後の選挙結果が如何なるものになるか、注目です!

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