ページ

2016/11/06

列車内での「マナーを守る」とは!?-東急電鉄マナー向上広告とドイツ・韓国留学経験から考える

こんばんは、鉄道旅行好きのタケオです。
最近東京急行電鉄株式会社(以下東急電鉄)より公開された、「わたしの東急線通学日記」と題されたマナー向上広告を巡り、ちょっとした論争が起きているようです。
そこで今回はこの広告を通して、「マナーを守る」とは一体何なのか、思うところがあったので、書きたいと思います。


目次
1. 「わたしの東急線通学日記」について
2. 東急電鉄マナー向上広告車内化粧篇で論争巻き起こる
3. 東急電鉄マナー向上広告車内化粧篇に対し、海外からも反応
4. 東急電鉄マナー向上広告に対する個人的見解
5. 「列車内でのマナー」に対する個人的見解の変化
6. 海外での列車内の様子を見てきて完全に変わった、マナーに対する見解
7. 日本社会の一部に見られる、列車内での行動に対する見解の現状
8. 終わりに:不必要なことにまで注意したり、他人に干渉するような社会は、住みやすい社会なのか


「わたしの東急線通学日記」について



東急電鉄では、「わたしの東急線通学日記」公開にさいして次のような文言を掲載しています。


マナー向上への取り組みとして、マナー広告とドラマを融合させた新しいシリーズをスタートしました。
駅ばりポスターと動画にて、東急線で日常的にトラブルにつながるような利用シーンなどをストーリー仕立てに描写します。
ご利用いただいているお客さまの目線でマナーに対するメッセージを発していくことで、ひとりでも多くのお客さまの気づきにつながるようにするとともに、マナー向上へのご理解とご協力を呼びかけていきます。


Youtubeにも次の4つのマナー向上広告の動画が上がっています。


東急電鉄マナー向上広告整列乗車篇


東急電鉄マナー向上広告荷物篇


東急電鉄マナー向上広告「歩きスマホ篇」


東急電鉄マナー向上広告「車内化粧篇」


東急電鉄マナー向上広告車内化粧篇で論争巻き起こる



2016年10月27日付産経ニュース「車内化粧、みっともない? マナー動画に反発、論争も」では以下のように伝えています。


電車内で化粧をする女性。その姿を批判的に描いた東急電鉄のマナー向上広告の動画が、ネット上で波紋を呼んでいる。「恥ずかしいことだ」と動画に賛同する人がいる一方で、「何がいけないの?」と反発する声も。「みっともなさ」の感覚や公共の場での振る舞いを巡って論争が起きている。


東急電鉄マナー向上広告車内化粧篇に対し、海外からも反応



2016年10月28日付米ワシントン・ポスト「日本の広告「車内化粧はみっともない(Women doing their makeup on the train are ‘ugly,’ says Japanese commercial)」を執筆した記者は、女性の日本労働市場への進出の低さと関連付けて、次のように書いています。


The ad frowning on women — many of whom are presumably on their way to work — comes at a time when the Abe government is trying to break down gender barriers encourage more women into the workplace.But ads like this and court decisions like the recent ruling that married women can not use their maiden names, even at work, show just how far Japan has to go. 
(おそらく殆どが仕事に向かう途中であろう)女性に向けられたこの広告は、安倍首相が男女間の労働差別をなくし、労働市場への女性進出を促そうとしている矢先に作られた。このような広告や、仕事場であっても旧姓使用を認めない最近の判決は、男女間の労働差別解消への道のりが果てしなく長いことを示している。


また、2016年10月28日付韓国東亜日報「『化粧は家で』日本鉄道会社のマナー広告に『女性抑圧』vs『マナーが悪い』舌戦(‘화장은 집에서’ 日 지하철 예절 공익광고에 “여성억압” vs “비매너” 설전)」では、韓国でも同じような論争が起こっているとして、以下のように伝えています。


지난해 한 일간지가 ‘지하철에서 화장하는 여자’라는 제목의 칼럼을 실은 후 온라인 공간에서는 “남에게 피해를 주지 않는데 뭐가 문제인지 모르겠다”,“바쁜 출근시간 남성보다 챙길게 많은 여성에게 그것마져 못하게 하냐”는 의견과 “바로 옆에서 풍기는 화장품 냄새는 어떤 이에게 거북할 수도 있다”,“우리나라 사람만 전철에서 화장을 한다. 외국인은 이상하게 본다”등의 의견이 충돌했다.  
昨年ある日刊紙が「地下鉄で化粧をする女性」という題目でコラムを載せた後、ネットでは「他人に被害はないのに何故問題なのか」、「忙しい出勤時間、男性よりやらなきゃいけないことが多いのに化粧さえもダメなのか」という意見と「目の前で漂う化粧品の匂いのせいで気分が悪くなることがある」、「地下鉄で化粧をするのは韓国だけ。外国人は可笑しく思っている」等の意見が飛び交った。

지난 4월 서울도시철도공사가 집에서 화장을 미처 하고나오지 못한 여성을 위해 지하철역에 파우더룸을 설치한다는 소식이 전해진 후에도 같은 논쟁이 벌어졌다. 
昨年4月にはソウル都市鉄道公社(ソウルで地下鉄を運営する公社)が、家で化粧をすることができない女性のために、地下鉄駅にパウダールームを設置すると発表した直後にも、論戦が繰り広げられた。


東急電鉄マナー向上広告に対する個人的見解



僕は、東急電鉄マナー向上広告で取り上げられた4つの事例に関して、整列乗車・歩きスマホは理解できるも、荷物・化粧については「ちょっと違うんじゃないか」と思いました。
その理由は以下の通りです。


◎整列乗車

順番を守るべきだという考えに同意するのと、足腰の不自由な方や妊婦等が優先であるところを考えていないことが問題、と考えるからです。


◎歩きスマホ

不意にぶつかることで大きなケガを負わせる危険性がある、と考えるからです。


◎荷物

大きい荷物が目の背後にあることで、ぶつかっていることに気づきにくいことは確かですが、荷物を前に背負っても、限られた空間の中でかなりのスペースを占めることには変わりなく、あまり効果がないと思います。


そういうことを考えると、事情によりどうしても大きな荷物を持たざるを得ない乗客にしては、広告の最後に出てくるように「大きな荷物は周囲にご配慮下さい」と言われても、後ろに背負うと無意識に他の乗客にぶつかる可能性があるけれども、前に背負っても必要以上のスペースを占めてしまうし、「じゃあどうすれば良いの?」とならざるを得ないと思うからです。


大きい荷物を持つ人となると、例をあげれば出張や旅行目的でスーツケースを運ばざるを得ない人もいるわけで、そういう人はどうすれば良いのか、となると論争が終わらない気がしてならないのです。


◎化粧

「マナー」というのは、他人に迷惑を掛けないために「守る」ものだと思うのですが、主人公の女性が言っている「みっともない」というのは、広辞苑によれば「見るに堪えない」ということで、本当に迷惑を掛けているわけではないので、筋違いであると思うからです。


もしかしたら、「『見るに堪えない』というのも他人に迷惑をかけているのでは」という方もいるかもしれませんが、ある行動に対して「みっともない」と考える度合は(特に現代社会においては)人それぞれであり、特定の人が「みっともない」という理由だけで止めるよう指図するのは、他人への干渉が強すぎると思います。


「列車内でのマナー」に対する個人的見解の変化



上記のように書いた僕も、高校生の頃までは、「列車内でのマナーは絶対に守るべき」と考える人でした。
列車の車内で着信音が鳴るのを聞いたり、化粧をしている人を見る度に「マナーがなっていない」と思って、イライラしていました。


しかし、列車内でのマナーに対する見解が変わり始めたのは、「リュックサックは前に抱えるか、網棚の上に載せるようにしましょう」というマナー喚起が出てきた時からだったように思います。


僕が大学に通っていた時は、小さな鞄では必要な教科書・ノート・辞書が入りきらないということで、リュックサックで通学していましたし、2、3日程度の国内旅行に出掛ける時は、必要な物や着替え等をリュックサックの中に詰めて旅行していたので、どうしてもリュックサックはある程度パンパンな状態。


そうしていた中で、上のような注意をされても、「両足の間に置くのならまだわからなくはないけど、前に抱えたってかなりのスペースを占めるわけだから、やっぱり迷惑だと思う人もいるかもしれないし、網棚の上に載せられないほどの荷物だったらどうするんだ」と反発心が先に来てしまい、完全には納得できなかったのです。


海外での列車内の様子を見てきて完全に変わった、マナーに対する見解



そして、列車内でのマナーに対する見解が完全に変わったのは、海外旅行に出掛けるようになったり、ドイツと韓国に長期語学留学したりした時でした。


僕は海外21ヶ国を旅行していますが、どの国でも列車等の公共交通機関内でのマナー喚起に関するアナウンスを聞いたことが一度もありません。
また、ドイツ等欧州では、列車内に自転車を持ち込んだりペットと一緒に乗ることは、許されていることもあってか別に珍しくないですし、パフォーマーが突然パフォーマンスを始めて演奏を行うこともあります。


僕が一番驚いたのは、ベルリン・オリンピアシュタディオン(Olympiastadion Berlin)で行われるヘルタ・ベルリン(Hertha BSC)のホームゲームを見に行こうと地下鉄(U-Bahn)に乗った時に、地下鉄車内でチャントを大声で歌いながら騒ぐサポーターの姿を見たときでした。
僕は埼玉県出身で浦和レッドダイヤモンズのホームゲームを良く見に行っていましたが、日本の中でサポーターが熱狂的なことで知られる浦和サポーターでも、埼玉高速鉄道線車内では静かに乗っているので(笑)、尚更驚きました。


ベルリンを走る通勤電車Sバーン(S Bahn)で見かけた、自転車を持ち込む乗客。
休日であることと沿線に保養地がある、ということもありますが、折り畳みでもなく普通の自転車を持ち込む乗客もいました。


ベルリン地下鉄U2線オリンピアシュタディオン駅から、ベルリン・オリンピアシュタディオンに向かうヘルタ・ベルリンサポーター。
試合が始まる数時間前にもかかわらず、地下鉄車内はサポーターのチャントが響いて、かなりうるさかったです(苦笑)。


尚、昨年2015年にベルリン市交通局(BVG, Berliner Verkehrsbetriebe)より公開され、動画"Is' mir egal(構わないさ)"は、地下鉄内での様々な行動に対して「構わないさ(Is' mir egal)」とか「ダメですよ(Is' mir nicht egal)」と歌っていて、ベルリンだけでなくドイツ中で話題になりました。


「構わないさ」と判断されている行動の中に、「1ヶ月定期保持者」というありきたりなものだけでなく、「馬に乗りながら乗車する」・「玉ねぎを切る」・「チーズを削る」といった、Is' mir nicht egalでしょうと思うような行動まで「構わないさ」と歌っているのは流石にやり過ぎかなという面はなくはないですが、ベルリンに6ヶ月滞在していた経験から見て、そういった行動まで「構わないさ」と言ってのけてしまうかもしれないような雰囲気がベルリンにあるのは間違いないと感じます。


ベルリン市交通局公開動画「構わないさ(Is' mir egal)」


韓国では、列車内で携帯電話で(しかも小さくない声で)通話するとか、女性が化粧をするといったことはよくあることですし、特に地下鉄内では物売りもいます。


ソウルの地下鉄車内で雨合羽を売る物売り。
カートを運びながら車内を歩き回るので、日本からしたらかなり迷惑がられるでしょう(苦笑)。


そういったことを経験し、帰国してから日本の列車に乗ってみると、今まで気になっていた車内での化粧とか、携帯電話での通話とかが不思議と気にならなくなっていたんです。


そう感じた時に思いました。


僕がイライラしていたのは、「マナーがなっていないから」ではなく、「自分は他者からのマナー喚起にのっとってしないようにしていることを平気な顔でされるから」なのだと。
そして「『そういう人もいる』と思えば別に気にならないことに対して、余計な考えのせいでイライラしていた」ということに気づいたんです。
(更に個人的なことまで言ってしまって申し訳ないですが、、主に小・中学校時代の経験から怒声又は誰か一人でも起こりそうな雰囲気に対するトラウマがあり、マナー喚起されているような行動を見かけると、「誰かがそのうち怒り出すのでは」と過剰に意識しすぎていたのでは、ということもあります。)


今では「列車には様々な人が乗り込む場所であるのだから、他人にケガを負わせるような行動でなければ、列車内の行動に対して他人が口出しをするものではない」という考えに変わったと同時に、「他人にケガを負わせるような行動だけでなく、個人の価値観に依るような行動までも対象にされる日本でのマナー喚起は少しやり過ぎ・筋違いな部分があるのではないか」と思うようになりました。
東急電鉄マナー向上広告に対して、全て賛同できなかった背景がここにあるのです。


日本社会の一部に見られる、列車内での行動に対する見解の現状



日本では禁止されているわけではないけれども自転車を列車内に持ち込む人や列車内で大声を叫ぶ人は殆どいなく、他人に迷惑を掛けないという意味での「マナーを守る」から更に一歩踏み込んで、他人の気持ちに配慮しようという姿勢は良いと思います。


その一方で、自分に特段迷惑が掛かるわけでもない行動に対し、自分だけの価値観にとらわれ過ぎた結果、「気に入らない」とか「みっともない」というだけで激しく注意してしまうことも少なくない、というのが現状ではないでしょうか。
そんな一部の人たちが訴えたからこそ、今回論争になっている、東急マナー向上広告化粧篇のような広告が製作されたのでしょうう。


このような状況が生まれる背景には、都市部での満員電車に代表されるように、「狭いところに押し込まれて窮屈に乗っているのに何であの人は」とか、「公共の場」というのを過剰に意識し過ぎて、「自分は他人に配慮しながら乗っているのに何であの人は」とかいう感情が根底にあるのではないかと考えます。


終わりに:不必要なことにまで注意したり、他人に干渉し過ぎるような社会は、住みやすい社会なのか



海外での事例では、日本では滅多に見られないような光景ばかり記載しましたが、海外だって勿論完全に無秩序なわけではありません。
ベビーカーを押す人が現れたら周りの人が手助けしますし、足腰の不自由な人や妊婦等に席を譲ります。


しかし、自分に被害がないような行動には個人の判断に任せるような雰囲気があり、そのような行動に対する不必要な注意はおろか、不機嫌そうな表情も見掛けませんでした。
(「個人の判断に任せる」というのは、「自分でしっかり考えを持った上で行動しているなら構わない」というスタンスであり、決して「どんな行動もとっても良い」というのではありません。)


「海外の事例を持ち出すでない」という方もいるかもしれませんが、僕が問いたいのは、「海外がこうだから日本も倣うべき」というのではなく、「不必要なことにまで注意したり、他人に干渉し過ぎたりするような社会は、住みやすい社会なのか」という本質的な問題です。
そういったことが日常茶飯事になれば、注意される対象になった人の気持ちを害すだけでなく、注意する人自身も不必要なイライラが残るだけで、結局は何の得にもならないと思います。


周りで起こる状況に対し、自分本位の考えにとらわれ過ぎることなく、短絡的に結論を出すことなく、背景等しっかり考えてから判断し、行動に移せるようになるべきではないでしょうか。


マナーや鉄道に関することは、こちらの書籍もご参考に!

0 件のコメント:

コメントを投稿