高麗大学校語学堂6級の授業の中で朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮、ちなみに韓国では一般的に「北韓(북한、プッカン)」と呼びます)のことを学ぶのですが、その一環として、2008年に韓国、2010年には日本でも公開されたという、キム・テギュン(김태균)監督の映画「クロッシング(크로싱)」を鑑賞しました。
◎韓国映画「クロッシング」あらすじ
俳優チャ・インピョ(차인표、代表作『星に願いを(1997年MBC)』・『白い巨塔(2007年MBC)』)演じる、北朝鮮に暮らすキム・ヨンス(김용수、以下ヨンス)は、昔北朝鮮を代表するサッカー選手として活躍していたものの、今は炭鉱夫として、妻とシン・ミンチョル(신명철)演じる息子キム・ジュン(김준、以下ジュン)を養う日々。
そんな中、母が妊娠中栄養失調が原因の結核に掛かり、医師から「この病気を治せる薬はうちにはなく、中国に行けば手に入る」と告げられ、薬を買うには北朝鮮で働くのでは不十分だと考えたヨンスは、苦悩の末に妻と息子ジュンを北朝鮮に残し、命がけで豆満江を渡る。
中国越境に成功し、他の越境者と共に1日労働者として働き始めるも、中国公安に見つかり、なんとかその手を逃れるうちに、国際的脱北者支援団体と繋がっている中国人ブローカーに「元サッカー選手としてインタビューを受けてもらえれば金を渡す」と言われ、それを信じ込んだヨンスは彼の手により北京に連れられ、他の越境者と共にドイツ大使館に駆け込む。
ヨンスは本当は妻の病気を治せる薬を買った後直ぐに北朝鮮に戻るつもりだったが、大使館から出れば中国公安に逮捕されると支援団体職員から咎められ、仕方なく団体から受け取った偽造パスポートで韓国に渡り、ソウルにある工場で働き始めながら、薬局にてやっとの思いで病気を治せる薬を手に入れる。
しかし、その間に妻は帰らぬ人となっていた。
1人残されたジュンは、同じ学校に通っていた友達で、韓国のテレビ番組を見ていたとして両親が処刑され、孤児として路上生活を送っていた、女優チュ・ダヨン(주다영、代表作『チャングムの誓い(2003年MBC)』・『大王世宗(2008年KBS)』)演じるミソン(미선)と共に、父の後を追って中国に渡ろうとするも北朝鮮軍に見つかり、強制労働所に送られる。
強制労働所で過酷な労働を強いられながら生きていたジュンだが、ミソンは病に力尽きてしまう。
ソウルの工場で働いていたヨンスは、サッカー選手として知っていた彼を手助けしたいという別のブローカーから、家族をソウルに呼び寄せられる道があることを知り、まずブローカーに北朝鮮の家の様子を見に行ってもらったが、既に妻は亡くなり、ジュンも強制労働所に生かせられたことを知り、愕然とする。
ヨンスとジュンはブローカーの手助けを得ながら、韓国で会うには相当の長い道のりとなること、中国で会うには公安に捕まる危険性があるとして、モンゴルで再会しようとする。
果たしてヨンスとジュンは無事に再会できるのか?
◎韓国映画「クロッシング」を鑑賞しての感想
「脱北者を扱った映画」と聞くと、普通は「北朝鮮は貧しく、自由な思想が許されない国家で、北朝鮮国民は可哀想だ」という視点のみで描かれそうですが、この映画はそういった分かりきった視点のみならず、脱北する過程において、自己の立場のみを重視するブローカーたち、言葉やアクセントに違いがあるとか、家族を残して国を去ったとして、冷たい視線を向ける韓国人の姿も描かれています。
北朝鮮の実態を主に報道機関を通じて知る他ない韓国人としては、「貧しい思いをしている同じ民族の人たちを助けたい」と思っている一方で、実際道端で脱北者に出会った際に、彼らに対してどう思っているのか、非常に考えさせられる映画だと思いました。
これは日本人としても同様のことが言えると思います。
北朝鮮に関する報道が限定的なものでしか伝えられていない中、北朝鮮で起こっている知られざる現実、そして手助けの必要な人たちにどういった目を向けているか、私たちも真剣に考えるべきではないでしょうか。
◎韓国映画「クロッシング」を鑑賞した中国人学生の反応
僕のクラス(だけでなく他の6級のクラスでも)の学生は殆どが中国人で占められていますが、北朝鮮についての勉強が始まった際、僕のクラスに属する中国人は殆ど関心がないようでした。
「中国は、朝鮮戦争時に北朝鮮を支援し、今でも北朝鮮と外交関係を築いている国家なのに、何故そこまで関心がないのか」と不思議に思い、別クラスにいる親しい中国人に、このことについてどう思うか尋ねると、「中国人は元々北朝鮮どころか自国の政治についても関心がないし、北朝鮮は中国に対しても門を閉ざしていて、情報を得られる機会が中々ないからじゃないか」との答えが返ってきました。
いくら外交関係を維持している中国に対してでさえも情報を閉ざしている傾向にある北朝鮮の外交事情を改めて窺い知ることができました。
しかし、映画鑑賞後翌日の授業では、映画で描かれた内容について質問する学生が多く出て、彼らの中で北朝鮮に対する関心が少し芽生えたように見えました。
今回のように韓国での滞在の中で北朝鮮の事情を初めて知るとなると、中国の一般市民の中ではますます韓国の方に親近感が湧き、北朝鮮とは心が離れていく一方であることが予想できます。
こういった状況に対しても北朝鮮がどう対応するのか(いやもうなす術がないのかもしれませんが)気になるところではあります。
◎まとめ
実際に脱北してきたキム・チョリョンさん(김철영)が助監督として関わった作品として、「脱北者を取り扱った映画」というのみならず、北朝鮮を取り巻く事情や、脱北の過程で関与するブローカーの実態、そして脱北者に向ける韓国人の視線まで、様々なことを考えさせられる映画でした。
非常に重い内容ですが、日本でもDVDで見れるらしいので、関心のある方には是非おススメしたいです。
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