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2016/03/05

韓国の新語スペック(스펙)を巡る現代韓国社会の現状

こんばんは、タケオです。
以前「高麗大学校語学堂4級インタビュー課題発表の内容と結果について」の中で、韓国の会社員が「スペック(스펙)」の勉強に取り組むことについての発表を行ったことを書きましたが、そもそもスペックとは何なのか、そしてスペックを巡る現代韓国社会の現状について考えたいと思います。


◎スペックとは?


スペックについて、正しい韓国語の単語の意味や使用方法の普及に努めているという、文化教育部(日本での文部科学省に相当)所属国立国語院(국립국어원)ウェブサイトでは以下の記載があります。


引用元リンク
国立国語院発行新国語生活2012年第22巻第1号より、国立国語院ニュース(韓国語)

스펙은 주로 직장을 구하는 사람들 사이에서, 학력․학점․공인 외국어 성적․자격증 따위를 아울러 이르는 말이다.
원래 스펙은 영어 ‘스페시피케이션(specification)’에서 유래된 말로 주로 물품의 세부 사항이나 명세를 가리킬 때 쓴다.
그러나 최근 우리 사회에서 자주 언급되는 스펙은 취업을 위한 자격 조건을 아우르는 뜻을 가진 신조어의 성격이 강하다.
スペックは主に就職活動をしている人たちの間で、学歴・学業・公認外国語成績・資格等の総称を言う。
本来スペックは英語「specification」から来た言葉で、主に物品の詳細事項や明細を指す時に使う。
しかし最近の韓国社会でよく言及されるスペックは、就業のための資格条件という意味を合わせ持った新語の性格が強い。


僕は、仕事上の経験から、「specification」というと自動車の仕様書を思い浮かべますし、勤めていた職場の同僚間ではその仕様書をよく「スペック」と言っていましたが、現代韓国社会での「スペック」とは、これとは意味が全く異なる、「韓国語英語」と言っても良い言葉になっています。
ちなみに、「スペック」は2004年に国立国語院で新語として認められたそうなので、新語とは言え可現代韓国社会に登場してから既に10年以上経っていることになります。


現代日本社会でも韓国で言う「スペック」に含まれる事項は非常に重要視されていますが、総称の言葉が日本語で思い浮かばないことを考えると、現代韓国社会で如何に「スペック」が重要視されているかが推測できます。


◎スペック取得に必死の韓国就活生


韓国の就活生は「スペック」取得に必死になっているようです。
「大学の明日20代研究所(대학내일20대연구소)」というところが、セメスター制度で言う3学期以上在学している大学生500人を対象に調査を行ったところ、以下のような結果が出たということです。


2015年10月12日付聯合ニュース 就活生平均5.2個のスペックを準備(韓国語)

취업준비생들은 취업을 위해 1인당 평균 5.2개의 스펙을 준비하는 것으로 조사됐다.
취업을 위해 준비하는 스펙으로는 '토익'을 꼽은 응답자가 72.6%(복수응답)로 가장 많았다. 이어 '학점'(66.4%), '자격증'(65.8%), '토익 외 공인어학성적'(52.0%) 등을 꼽았다.
就活生は就職のために1人当たり平均5.2個のスペックを準備することがわかった。
就職のために準備するスペックとして、TOEICと答えた学生が72.6%(複数回答)と一番多かった。続いて成績評価(66.4%)、資格(65.8%)、TOEIC以外の公認語学成績(52.0%)という結果になった。

스펙을 쌓기 위해 별도의 교육을 받는 취업준비생은 전체 응답자의 49.2%에 달했다.
평균 교육 수강비용은 130만 4천원이었으며, 인문·사회계열이 160만 9천원으로 가장 많은 비용을 지출했다.
スペック取得のために別途教育を受ける就活生は、回答者全体の49.2%に達した。
平均教育費は130万4,000ウォン(約12万2,000円)で、人文・社会系学生が160万9,000ウォン(約15万500円)と最も多く支出していた。


調査結果から見るに、日本と同様にTOEICでの高得点を狙う就活生が多く、スペック取得のための費用も相当の額を費やしていることが窺えます。


◎企業の採用方式トレンドは「脱スペック」?


一方で、社員として採用する企業の間では、少し前までは初めに推測したように採用時にスペックの多さを重要視していたようですが、最近では財閥系大企業(サムスン、現代系等)を中心にそれを見直す動きがあるようです。


2016年1月17日付ソウル経済新聞 【職務中心『脱スペック』採用広がる どうやって準備を?】人事職は親和力、営業職は異色経験、マーケティング職は多様な人脈アピールを!(韓国語)

직무 중심 채용을 강화하는 것이 올해에도 가장 두드러진 채용 트렌드가 될 것으로 전망된다.
지난 해 하반기 직무적합성 평가를 도입한 삼성그룹을 필두로 대기업들은 물론 중소기업들도 올 들어 앞다퉈 스펙이 아닌 직무 능력을 보고 인재를 선발하겠다고 밝히고 있기 때문이다.
職務中心採用強化の傾向が今年も顕著になる見込みだ。
昨年下半期職務適合性評価を導入したサムスングループを筆頭に、大企業は勿論中小企業も、今年に入り競って、スペックではなく職務能力を見て人材を選抜すると明らかにしているためだ。

취업포털 잡코리아가 최근 실시한 설문조사에서도 직무 중심 채용 강화가 단연 으뜸 화두였다.
기업 인사담당자 10명 중 4명은 올해 채용 트렌드 1위로 '직무 중심 채용 강화'를 꼽았다.
就職ポータルサイトのジョブコリアが最近実施した設問調査でも、職務中心採用の強化が断然顕著になっている。
企業人事担当者10人中4人は今年の採用トレンドの1位として「職務中心採用の強化」を選んだ。

잡코리아 관계자는 "직무 중심 채용은 쉽게 말해 지원자의 역량이 향후 맡겨질 직무에 적합한지 여부를 평가해 사람을 뽑는 것"이라며 "이 과정에서 기업들은 지원자들이 작성한 '직무 에세이'를 살펴보거나 구직자들이 제출한 '자기소개서'를 토대로 면접을 실시해 직무 역량을 검증한다"고 말했다.
ジョブコリア関係者は「簡単に言えば職務中心採用は、志望者の力量が、後に任せることになる職務に相応しいかを評価して人材を選ぶもので、この過程で企業は志望者が作成した『職務エッセイ』を検証したり、適正な求職者が提出した自己紹介書を基に面接を実施して、職務の力量を測っている」と述べた。


◎会社員もスペック取得に躍起?


これまでスペックは主に就活生の間で語られてきたものですが、最近では会社員が昇進や転職のために取り組む語学力向上や資格取得も、スペックとして認識されてきているようなのです。
就職ポータルサイトのサラムイン(사람인)の調査によると、回答者550人の会社員の内55.9%がスペック取得に励んでいるといいます。


2015年11月30日付京郷ビズ 会社員の60%「生き残りのために今でもスペック取得に励む」(韓国語)

취업포털 사람인은 직장인 860명을 대상으로 한 설문조사 결과 응답자의 55.9%가 ‘입사 후 새로 쌓는 스펙이 있다’고 답했다고 30일 밝혔다.
就職ポータルサイトのサラムインは、会社員860人を対象に行った設問調査の結果、回答者の55.9%が「入社後新たなスペック取得に取り組んでいる」ことを明らかにした。

입사 후에도 스펙을 쌓는 이유로는 ‘자기 계발을 위해서’(59.7%·복수응답)라는 답이 가장 많았다. 다음으로 ‘이직을 준비하고 있어서’(52.4%), ‘업무상 필요해서’(35.8%), ‘승진에 필요해서’(13.9%) 등의 이유가 많았다.
入社後もスペック取得に取り組む理由としては「自己啓発」(59.7%・複数回答)が一番多かった。続いて「転職準備」(52.4%)、「業務上必要」(35.8%)、「昇進するために必要」(13.9%)等の理由を挙げられた。

새롭게 만들고 있는 스펙으로는 ‘자격증’(37.8%)을 꼽은 사람이 가장 많았다.
이어 ‘외국어 회화 능력’(16.6%), ‘토익 등 필기 성적’(9.8%), ‘학벌 및 학력’(9.6%), ‘제2외국어 능력’(6.7%) 등의 순이었다.
新しく取り組んでいるスペックの種類としては「資格」(37.8%)を選んだ人が1位だった。
他には「外国語会話能力」(16.6%)、「TOEIC等筆記成績」(9.8%)、「学閥及び学力」(9.6%)、「第二外国語能力」(6.7%)等の順位だった。

스펙을 쌓는 방법으로 절반 이상인 56.5%(복수응답)는 ‘독학’을 선택했다.
이밖에 ‘온라인 강의’(35.1%), ‘학원, 세미나’(23.5%), ‘대학원 등 진학’(9.8%), ‘사내 교육’(5.2%), ‘스터디 모임’(5%) 등을 꼽았다.
スペック取得へ向けての勉強方法としては、半数以上の56.5%(複数回答)が「独学」を選択した。
このほかには「オンライン講義」(35.1%)、「教室・セミナー」(23.5%)、「大学院等に進学」(9.8%)、「車内教育」(5.2%)、「勉強会」(5%)等だった。

스펙 마련을 위해 사용한 비용은 평균 175만원으로 집계됐다. 금액대별로 보면 ‘10만~30만원 미만’(20.4%), ‘10만원 미만’(15.4%), ‘30만~50만원 미만’(11%), ‘250만원 이상’(10.6%), ‘90만~110만원 미만’(8.3%) 등의 순이었다.
スペック取得のために使っている費用の平均額は175万ウォン(約165万円)と集計された。
金額代別に見ると、「10万~30万ウォン(約9,400~2万8,300円)」(20.4%)、「10万ウォン未満」(15.4%)、「30万~50万ウォン(約2万8,300~4万7,200円)」(11%)、「250万ウォン(約23万6,000円)以上」(10.6%)、「90万~110万円(約8万5,000~10万4,000円)」(8.3%)等となった。


主に大企業で「脱スペック」採用の動きが見られる反面、会社員も「スペック」取得に懸命になっていることに些か矛盾を感じますが。。


個人的には、自己啓発を目的としてやっている人は必要に迫られてやっている訳ではないので、スペック取得に取り組む理由として適切ではないのではないかと思うのですが、よほど「スペック」
という言葉が現代韓国社会に浸透しているということの表れなのでしょうか。


また、非常に驚いたことは、スペック取得に高い費用を掛ける会社員が少なくないことです。
特に250万ウォン以上となると、よほど人気のある教室や講師のセミナーに参加しないとそこまで行かないと思うのですが、そこまでお金を掛けるのであれば、費用対効果をしっかり検証する必要がありそうですね。


◎まとめ:スペックを巡る記事を読んでの感想


上に取り上げた記事を読む限り、TOEICをはじめとした外国語能力の向上や資格取得に勤しむ学生又は社会人が多い状況は日本と似ている一方、これらをひっくるめて「スペック」という言葉が生まれたことを考えると、程度は韓国の方が激しいと感じました。


このような取り組みは本来やみくもにするものではなく、自分の進路に沿って行わなければならないと思いますが、「良い会社に入って多くの給料を稼ぐ」という価値観が現代韓国社会の中に支配されている状況(僕は現代日本社会でも同じ状況だと思っていますが)にあって、特に就活生や若い世代の会社員にとっては、自分にとって何の職が適切か吟味できる時間が限られていて、「ひとまず就職」とか「多くの給料を稼げるようにならなければ」という気持ちに行きがちと思われるので、「とりあえず英語」とか「多くの会社で役立つ資格を自分も取らなければ」という意識になってしまうのが実情のような気がします。
実際、最後に取り上げた記事の中に、就職ポータルサイトの関係者の以下のような意見が載っていましたので、ご紹介します。


“막연한 불안감으로 남들이 하는 자격증 취득이나 어학 공부를 따라가기 보다 자신의 경력과 진로 계획에 따라 적절한 역량 강화 방안을 찾는 게 중요하다”
「漠然とした不安感で周りの人がやるような資格取得や語学勉強を自分もやることよりは、自身の経歴と進路計画に沿って適切な力量強化の方法を探すことが重要」

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